
この記事は『ウィッチャー3 ワイルドハント』の血まみれ男爵編について、家族の過去、ボッチリングの正体、アンナと男爵の結末まで詳しく触れるの。
未プレイの方、物語を自分で確かめたい方は注意してね。
「血塗れ男爵の物語を書いた人が、CD PROJEKT REDに戻ってきた」
ウィッチャーファンなら、この知らせだけで少し身を乗り出してしまうのではないでしょうか。戻ってきたのは、男爵編の会話やカットシーンを執筆したKarolina Stachyra氏。あの家族の物語に関わったシナリオライターです。
ウィッチャー4への参加はまだ公表されていませんが、この時期にCDPRへ復帰と聞けば、「次のウィッチャーでもあの奥深く味わいのあるシナリオが楽しめるのでは?」と思うのがファンの心情です。私も、その一人です。
なぜ、男爵編のシナリオライターというだけで胸が高鳴るのか。あの物語を結末まで振り返ると、理由が見えてきます。
男爵編の書き手が、約10年ぶりに帰ってきた
Stachyra氏は2月からコンサルタントとしてCDPRに関わり、8月に常勤のライターとして復帰しました。同社も復帰を認めていますが、担当作品は明かしていません。
男爵編は、彼女一人の作品ではありません。Paweł Sasko氏がクエストの展開設計とゲーム内への実装を担い、Stachyra氏が会話とカットシーンを書いたと説明されています。
あの物語の強さは、人物の言葉と、プレイヤーが実際にすることが噛み合っていた点にあります。その言葉を生み出した人が戻ってきた。ファンにとっては、十分にうれしい知らせです。
血塗れ男爵は「実はいい人」で終わらない
家族を愛していることと、家族を傷つけたこと
シリの行方を追うゲラルトは、男爵から妻アンナと娘タマラを探すよう頼まれます。最初は、横柄な権力者の依頼に見えます。しかし調査を進めると、二人が家を離れた理由が浮かび上がります。
男爵の飲酒と家庭内暴力。壊れてしまった夫婦関係。父親のもとへ戻ることを拒む娘。タマラの意思を伝えられた男爵は、戸惑いを口にします。

戻る気はないだと?
部屋を整え、新しいスリッパまで用意した男爵。しかし、帰る場所を用意することと、娘が帰りたいと思えることは違います。家族を取り戻したいという願いが、相手の気持ちと噛み合っていない。この短い言葉に、その隔たりが表れています。
男爵は単純な悪役でもありません。シリに対しては親切な一面を見せ、家族を失ったことにも苦しんでいます。話を聞くほど、嫌悪だけでは片づけられなくなる。
それでも、家族を愛しているという言葉が、暴力を帳消しにするわけではありません。男爵編の素晴らしさは、同情する余地と、許せない理由を同時に残すところです。
私は、この人物を好きになれるかどうかより、「理解してしまった相手を、どう判断するか」と問いかけられる点に引き込まれます。事情を知ってすっきりするどころか、判断が難しくなるのです。
CDPRは、男爵とゲラルトを、大切な家族を探す二人の父親として対比しています。どちらも血にまみれた過去を持ちながら、目の前の家族の問題には剣だけで答えを出せない。その重なりも、物語に奥行きを与えています。
怪物を斬る代わりに、子どもを弔う

忘れがたいのが、ボッチリングの場面です。
その正体は、アンナが流産し、十分に弔われないまま埋められた子ども。家族が向き合わずにいた死が、怪物の姿で現れます。
プレイヤーはボッチリングを殺すこともできます。しかし呪いを解く道では、男爵がその子を抱えて家へ戻り、名前を与えて埋葬します。デアと名づけられた子は、家族を導く精霊ラバーキンへ変わります。
ゲラルトに続いて、男爵は弔いの言葉を唱えます。

許したまえ、生まれいでし者、抱擁されなかった者よ
恐ろしい姿の怪物を前にしていたはずなのに、この言葉で、抱かれることのなかった子どもの存在が迫ってきます。男爵自身にそれを口にさせる。この演出が強烈です。
いつもなら剣で排除する相手を、今回は守りながら運ぶ。プレイヤーも、男爵が過去に向き合う時間に付き合うことになります。悲しい設定を説明されるだけではなく、自分の操作を通じて、その重さを受け取るのです。
子どもを救っても、家族を救えるとは限らない
男爵の家族の物語は、沼地の孤児たちと森の貴婦人たちの物語へつながります。そして、木に封じられた精霊をどう扱うかという選択が、結末を左右します。
通常の進行で精霊を解放すると、孤児たちは救われます。しかし、解放された精霊はダウンウォレンの村に惨劇をもたらし、子どもたちを失った貴婦人たちはアンナを罰して怪物に変えます。
アンナの呪いを正しく解いても、彼女は命を失います。最後の別れの場面で、男爵は謝罪を口にします。

アンナ、悪かった。全てのことを・・・謝りたい
その言葉を聞けたことには意味があるのかもしれません。それでも、謝れば取り戻せる時間は、もう残っていない。家族と最後の言葉を交わしたあとに訪れる死。そして城へ戻ると、男爵は首をつっています。
子どもたちを助けたかった。その判断が間違っていたとは思いたくない。それでも、目の前には取り返しのつかない結果が残ります。
精霊を殺す道なら、アンナは生き残ります。ただ、精神を病んでしまい、男爵は治療を求めて彼女を連れて去ります。家族にはかすかな希望が残る一方、孤児たちは貴婦人たちの犠牲になります。
※精霊を先に解放するなど、進行順による例外もあります。ここでは代表的な分岐を振り返っています。
私がこの結末をすごいと思うのは、単に救いがないからではありません。選ぶ瞬間には、結果のすべてが見えていないからです。
善意はあります。助けたい相手もいます。しかし、善意だけで世界を思いどおりにはできない。あとになって別の犠牲を知り、「あのとき、どうすればよかったのか」と考えてしまう。
男爵編は、その問いをプレイヤーの手元に残します。クエスト完了の表示が出ても、気持ちは終わらないのです。
ウィッチャー4でも、忘れられない人物に出会いたい
ウィッチャー4の公式トレーラー動画でも、主人公シリが怪物だけでなく、村人の偏見や迷信にも直面する姿が描かれています。
人を救おうと介入しても、望んだ結果が得られるとは限らない。この方向性を見ると、男爵編のような物語を期待したくなります。
そこでStachyra氏の復帰です。この時期に戻ってきたと聞いて、期待するなというほうが難しいでしょう。
もちろん、あのクエストは文章だけで成立したわけではありません。設計、演技、演出が重なって、あの体験になりました。今回も、そのライターの経験がチームの中でどう生きるのかが楽しみです。
私が次作で出会いたいのは、男爵の焼き直しではありません。最初は嫌な相手だと思ったのに、話を聞くうちに判断が揺らぐ人物。助けたつもりが、後から別の傷に気づく選択。そして、シナリオが終わった後も心に深く残る感情。
映像の進化にも期待しています。でも、新しいウィッチャーを遊びたい理由は、それだけではありません。
シリと旅を終えたあとにも、名前と顔を忘れられない誰かがいる。血塗れ男爵のライターが戻ったという知らせに、私が期待しているのは、そんな出会いです。

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