※この記事は『ウィッチャー』の登場人物を題材にした、非公式のパロディ企画です。原作やゲーム本編とは関係ありません。
冬のケィア・モルヘン。
怪物退治の依頼もなく、城内には珍しく穏やかな時間が流れていた。
ところが食卓に置かれた二つのお菓子をきっかけに、その平穏はあっさりと破られる。
「きのこの山」と「たけのこの里」
北方諸国の命運とはまったく関係のない、しかし本人たちにとっては譲れない戦いが始まろうとしていた。
ケィア・モルヘンに新たな争いの火種

ねえ、ヴェセミルおじさん。もう一度よく見て。どう考えても、たけのこの里の方がおいしそうでしょ?クッキーの部分までチョコがついていて、一口で全部の味を楽しめるんだから

見た目だけで判断するなと、何度教えた?派手なものほど中身が伴わんこともある。怪物も菓子も、まずは落ち着いて観察するものだ

お菓子を怪物と同じように観察する人、初めて見た。それに、きのこの山が落ち着いているんじゃなくて、少し地味なだけじゃない?

地味で何が悪い。持ちやすく、手を汚さずに食べられる。チョコとクラッカーを別々に味わえるのもいい。余計な飾りに頼らず、必要なものがきちんと揃っている
ヴェセミルにとって食べ物は、味だけで評価するものではないらしい。
持ち運びやすさ、手を汚さないこと、そして旅の途中でも食べやすいこと。いかにも長年街道を旅してきたウィッチャーらしい判断基準である。
しかし、シリにはその理屈がまったく響かなかった。

また実用性の話?私たちは遠征用の保存食を選んでいるんじゃないの。どっちのお菓子がおいしいかを話しているのよ

味だけで食べ物を選ぶから、若い者は肝心なところを見落とす。長旅の途中で手をチョコまみれにして、そのまま剣を握るつもりか?

たけのこの里を食べながら怪物と戦う状況なんて、たぶん一生来ないと思う。それに、また『若いから分からない』で終わらせるつもり?

お前の意見を聞いていないわけではない。ただ、一度これだと決めると、ほかが見えなくなることがある。菓子の話なら笑って済むが、外ではその癖が命取りになる。それを忘れるなと言っているんだ
シリは、わずかに口をとがらせた。
ヴェセミルが心配していることは分かっている。それでも、いつまでも何も知らない子どものように扱われるのは面白くない。

今は訓練じゃないよ、ヴェセミルおじさん。そうやって何でも教訓にするから、みんなに面倒くさいって言われるんだから

誰がそんなことを言った?

ランバート

……あいつの言うことは聞かなくていい。特に俺について話しているときはな

でも、その反応を見ると少しは当たってるみたい

シリ。話をそらすな

ついに食べ比べ対決へ
シリは二つの皿を用意し、きのこの山とたけのこの里を同じ数だけ並べた。
言葉で決着がつかないのなら、実際に食べて比べるしかない。

形が分からないように細かく割って、目隠しをして食べ比べる。それなら見た目にも惑わされないし、年齢も経験も関係ない。味だけで公平に決められるでしょ?

そこまでしなくても結果は分かっている。お前は昔から、勝負となると妙なところで意地になるな

私が意地になってるんじゃなくて、ヴェセミルおじさんが負けるのを怖がってるんじゃない?

子どもの挑発に乗るほど若くはない。それに、お前が負けたあとで不機嫌になると面倒だからな

だったら逃げてもいいよ。ヴェセミルおじさんは、きのこの山の方がおいしいって証明できなかった。それで終わりにしてあげる
ヴェセミルは小さく息を吐いた。
シリの挑発に乗るべきではない。そんなことは十分に分かっている。
それでも、どこか得意そうに笑う孫弟子を前にして、背を向ける気にはなれなかった。

……目隠しを持ってこい。ただし、負けても泣くなよ

誰に言ってるの?

ヴェセミルが選んだのは?
先に目隠しをしたのはヴェセミルだった。
シリは二つのお菓子を細かく割ると、そのうち一つをヴェセミルの手に乗せた。

それじゃあ最初のひとつ。ちゃんと味わってね。見た目に惑わされず、落ち着いて観察するんでしょ?

さっき俺が言ったことを、得意そうに繰り返すな。黙って食わせろ
ヴェセミルは菓子を口に入れ、ゆっくりとかみしめた。
シリは笑いをこらえながら、その答えを待っている。

……なるほど。チョコの甘さだけが先に来ず、生地の香ばしさもしっかり残っている。歯触りも悪くない。やはり菓子は、それぞれの素材を感じられる方がいい

つまり、どっち?

こちらが、きのこの山だな。食べれば分かる

目隠しを取っていいよ、ヴェセミルおじさん
ヴェセミルが目隠しを外す。目の前では、シリが「たけのこの里」の箱を持っていた。


いま食べたの、たけのこの里

…………

生地の香ばしさが残って、歯触りも悪くないんだよね?それから、食べれば分かるんだっけ?

一度の試食だけで結論を出すのは早い。偶然という可能性もある。正確な判断には、もう少し検証が必要だ

さっきまで、食べれば結果は分かるって言ってたよね?

シリ。ウィッチャーに必要なのは、状況に応じて判断を修正する柔軟さだ。最初の考えに固執していては、変化する戦況に対応できん

それを普通は、負け惜しみって言うんだよ
勝ち誇るシリを前に、ヴェセミルは静かに目隠しを置いた。そして皿に残っていた、たけのこの里をもう一つ手に取る。

あれ?もう結果は分かったんじゃなかった?

だから検証を続けている。十分な回数を試さなければ、公平な結論は出せん

それなら、もう一箱買ってこないとね。負けた方が買う約束だったでしょ?

調子に乗るな。俺はまだ、きのこ派だ

はいはい。そういうことにしておいてあげる
結局、ヴェセミルがきのこ派を改めることはなかった。ただし、その日のうちに空になったのは、たけのこの里の箱の方だった。
あなたはどちらに加勢する?
こうしてケィア・モルヘンで勃発した「きのこの山・たけのこの里論争」は、シリの勝利らしき形で幕を閉じた。
もっとも、ヴェセミル本人は負けを認めていない。
あなたなら、きのこ派のヴェセミルと、たけのこ派のシリ、どちらに加勢するだろうか。
ぜひコメント欄で教えてほしい。

次回の「ケィア・モルヘン口喧嘩劇場」でも、北方諸国の平和とは特に関係のない論争が始まる……かもしれない。

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