全世界のゲームファンが待望するCD PROJEKT REDの新作『ウィッチャー4』。その主人公が、前作までの主人公ゲラルトの養女「シリ」であることが発表され、ファンの間で大きな話題となっています。
この決定に歓喜の声が上がる一方で、戸惑いや批判的な意見も少なくありません。この記事では、なぜシリがウィッチャー4の主人公になることに賛否両論が巻き起こっているのかを深掘りし、開発者の意図や物語の背景を解説します。
また最後に、筆者よりすべてのファンが納得できるかもしれない、未来への一つの提案をさせていただきます。
開発者の声:「判断を急がないでほしい」

まず、開発者たちがこの決定についてどう語っているのか見てみましょう。『ウィッチャー4』の開発チームは、ファンからの様々な反応を認識した上で、自信を持ってシリを主人公に選んだと語っています。
エンジニアリング・プロダクション・マネージャーのヤン・ヘルマノヴィチ氏は、ファンに対して「ゲームが発売されたら、皆さんご自身で見て、彼女のキャラクター、彼女の物語を完全に受け入れることができるでしょう」と述べ、ゲームをプレイするまで最終的な判断を待ってほしいと呼びかけています 。
また、開発陣が繰り返し強調しているのが、「原作小説を読んでほしい」というメッセージです 。彼らによれば、原作の物語はゲラルトの視点から始まりつつも、徐々にシリの物語へと移っていく構成になっており、彼女が次なる主人公となるのは「非常に有機的で、論理的な選択」なのだといいます 。
この決定は最近のものではなく、何年も前に下されたものであり、シリーズの自然な進化であると開発チームは考えているのです 。
なぜシリが主人公になることに懐疑的なのか?
では、なぜ一部のファンはシリの主人公就任に懐疑的なのでしょうか。その背景には、いくつかの理由が複雑に絡み合っています。
ゲラルトへの強い愛着

三作品にわたってプレイヤーの分身であり続けたリヴィアのゲラルトは、多くのファンにとって「ウィッチャー」そのものです。
その象徴的なキャラクターを失うことへの寂しさや、男性主人公に自己投影してプレイしたいという感情的な抵抗感が、最も根源的な理由の一つとして挙げられます 。
設定上の疑問:「本物のウィッチャー」ではない?

最も多く聞かれるのが、「シリは『本物のウィッチャー』ではない」という設定に基づいた批判です。ウィッチャーは「草の試練」と呼ばれる変異誘発剤の儀式を経て超人的な能力を得ますが、シリはこの試練を受けていません 。
そのため、ウィッチャーの力の源でもある霊薬を飲むことができず、毒や病気に対する耐性も持たないのです 。
あるファンは「彼女はウィッチャーの霊薬を使えない。だからウィッチャーにはなれない。それだけのことだ」と手厳しく指摘しています 。
ゲームプレイへの懸念

『ウィッチャー3』で一時的にシリを操作するパートがありましたが、一部のプレイヤーからは「面白くなかった」という声も上がっています 。
また、彼女が持つ「古き血脈」の力は時空間を操るほど強力で、RPGとしてのゲームバランスを崩壊させてしまうのではないか、という懸念もあります 。
逆に、霊薬が使えないことで基本的なモンスターとの戦闘でさえ苦戦するのではないか、という弱すぎることへの心配もあり、強すぎると同時に弱すぎるという矛盾した批判が存在しています 。
ウィッチャー3でシリが操作できるパートに関して、筆者は個人的に楽しくプレイできたと感じています。ゲラルトの重厚な操作感とは対照的でアクション性のさらに強いプレイフィールは、無双シリーズっぽい爽快感もあってゲームプレイに絶妙なスパイスを加えてくれました。
しかし、あの操作感がウィッチャー4では標準になることはないと思います。あくまでもウィッチャーシリーズは戦う前の入念な準備が楽しみの一つであり、スマッシュな操作感だけではウィッチャーをプレイしているという感覚には浸れないと思います。
「ポリコレ(Woke)」への批判

一部では、女性主人公を起用したことを「ウォーク(ポリコレ的)」、つまり政治的正しさに迎合した結果だと非難する声も上がっています 。
これは単にキャラクターの性別の問題ではなく、ゲーム開発の方向性に対する不信感の表れとも言えるでしょう。
プレイヤーの自由度

ゲラルトやシリのような固定の主人公ではなく、自分でキャラクターを作成したいという要望も根強くあります 。
猫流派やグリフィン流派など、まだ見ぬ流派のウィッチャーとして、自分だけの物語を体験したいと考えるファンも少なくありません。
シリこそが正当な後継者である理由
これらの懸念や批判に対して、シリが主人公として正当である理由を、原作小説や『ウィッチャー3』の物語から紐解いていきましょう。
原作小説における「運命の子」

開発者が言うように、アンドレイ・サプコフスキによる原作小説シリーズは、後半に進むにつれてシリの物語へと焦点を移していきます 。
彼女は単なる登場人物ではなく、物語全体の中心にいる「運命の子」なのです。ゲラルトの物語は、彼女を見つけ、守り、導くための旅であったとも言えます。ゲームシリーズがこの原作の流れを汲むのであれば、シリが主人公になるのは必然的な帰結です。
ウィッチャーとしての訓練と哲学

シリは「草の試練」こそ受けていませんが、ウィッチャーの砦「ケィア・モルヘン」で、ゲラルトやヴェセミルといった熟練のウィッチャーたちから、剣術、怪物に関する知識、サバイバル術といった厳しい訓練を受けています 。
彼女は化学的な変異ではなく、訓練と経験、そして自らの選択によってウィッチャーになったのです。霊薬が使えないという弱点は、むしろゲラルトとは違う緊張感のある戦闘を生み出す、新しいゲームプレイの可能性を秘めています 。
『ウィッチャー3』のエンディングが示す未来

『ウィッチャー3』でゲラルトの物語は一つの完璧な結末を迎えました 。特に、多くのプレイヤーが「ベストエンディング」と考える「ウィッチャーエンド」では、ゲラルトはシリにウィッチャーの道を歩むための手助けをし、銀の剣を渡します。
これは文字通り、次世代への「たいまつの継承」であり、『ウィッチャー4』への完璧なプロローグと言えるでしょう 。
「ポリコレ」批判への反論

また一部界隈で噂になっている「ポリコレ」への配慮の結果がシリの起用になったという件について、ゲラルトの声優であるダグ・コックル氏は「馬鹿げている」「ウォーク(ポリコレ的)でも何でもない」と一蹴しています 。
彼は、シリが主人公になるのは原作の物語に根差した自然な流れであり、批判する人々は「原作のクソったれな本を読むべきだ」と強く主張しています 。開発者も同様に、この決定は政治的なものではなく、物語の論理的な帰結として何年も前に下されたものだと説明しています 。
「古き血脈」が拓く新たな物語

シリが持つ時空間を操る「古き血脈」の力は、ゲームバランスを崩壊させるものではなく、物語を新たな次元へと引き上げる原動力です 。
この力があるからこそ、彼女はワイルドハントに追われ、世界の運命を左右する存在となりました。『ウィッチャー4』では、この力を巡る多元宇宙規模の壮大な物語が展開される可能性があり、それはゲラルトの物語とはまた違った、新しい冒険の始まりを意味します。
まとめと提案:すべてのプレイヤーの物語を尊重するために

これまでの情報を整理すると、シリが『ウィッチャー4』の主人公となるのは、原作小説から続く物語の自然な流れであり、ゲラルトの物語を尊重した上での、論理的かつエキサイティングな選択であることがわかります。
しかし、『ウィッチャー3』がマルチエンディング方式を採用したことで、プレイヤーごとにシリの迎えた結末が異なるという問題が残ります。あるプレイヤーのシリはウィッチャーになり、あるプレイヤーのシリは女帝になり、またあるプレイヤーのシリは生死不明(後に生存が示唆されましたが )となりました。
一つのエンディングを「正史」としてしまうことは、他のプレイヤーの体験を否定することになりかねません。
そこで、一つの提案があります。それは、『ウィッチャー4』のゲーム開始時に、プレイヤーがシリの「オリジンストーリー」を選択できるようにするというアイデアです。
- ウィッチャー・オリジン:『ウィッチャー3』のウィッチャーエンドを引き継ぎ、すでに怪物狩りの専門家として道を歩んでいるシリの物語。
- 元女帝オリジン:女帝エンドの後、窮屈な宮廷生活に嫌気がさし、自らの意志でその座を捨てて〈道〉に戻ってきたシリの物語 。
- 放浪者オリジン:「バッドエンド」の後、ゲラルトたちとは袂を分かち、孤独に世界を放浪していたシリが、再び大きな運命に巻き込まれていく物語 。

このように、プレイヤーが『ウィッチャー3』で迎えた結末に近い背景を選択できるようにすることで、すべてのプレイヤーが自分の物語の続きとして『ウィッチャー4』を始めることができます。これは、選択を重視してきた『ウィッチャー』シリーズの精神を継承し、ファンへの最大限の敬意を示す方法ではないでしょうか。
CD PROJEKT REDがどのような答えを用意しているのか、今はまだわかりません。しかし、彼らがシリという魅力的なキャラクターを通して、私たちの想像をはるかに超える、新たな「ウィッチャー」の世界を見せてくれることを期待して待ちましょう。
コメント